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新潟地方裁判所六日町支部 昭和45年(ワ)12号 判決

原告 中沢得一郎

原告 中沢代喜江

原告ら訴訟代理人弁護士 石川泰三

同 大矢勝美

原告ら訴訟復代理人弁護士 岡田暢雄

被告 株式会社 六日町自動車学校

右代表者代表取締役 宮武男

右訴訟代理人弁護士 岩野正

被告 高橋建設株式会社

右代表者代表取締役 高橋定

右訴訟代理人弁護士 田中登

同 二宮充子

同 大内猛彦

主文

被告らは各自原告らに対しそれぞれ一二五万二五七〇円およびこれに対する昭和四四年一月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は、第一項に限り、かりに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告ら)

被告らは連帯して原告らに対しそれぞれ四〇四万五二一四円およびこれらに対する昭和四四年一月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

(被告六日町自動車学校)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

(被告高橋建設)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決ならびに担保の提供を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

昭和四四年一月二〇日午後一〇時四〇分頃、新潟県南魚沼郡塩沢町大字塩沢七九六番地一先国道一七号線路上において、訴外野上延年運転のマイクロバス(新五ぬ四九九〇号、以下「甲車」という。)が同所に駐車中のダンプカー(新四め九五二六号、以下「乙車」という。)の後部に追突し、その結果、甲車の助手席に同乗していた訴外中沢和郎が腹部外傷、左腎破裂、脾腸管損傷、後腹膜出血、頭部打撲、左八・九・一〇肋骨骨折、左尺骨骨折の傷害を受け、同年一月三〇日午前一〇時一〇分右傷害に起因する急性心不全により入院先の新潟県立六日町病院で死亡した。

(二)  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故によって生じた後記損害を賠償する責任がある。

1 被告六日町自動車学校は、甲車を所有し自己のために運行の用に供していたのであるから、自賠法三条の運行供用者責任。

2 被告高橋建設は、乙車を所有し自己のために運行の用に供していたのであるから、自賠法三条の運行供用者責任。

かりにそうでないとしても、同被告は、訴外鈴木誠を使用し、同人が同被告の業務を執行中、乙車を危険な場所に路上駐車させた過失によって本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項の使用者責任。

(三)  損害

中沢和郎および原告らは、本件事故によって次のような損害を受けた。

1 治療関係費  四万九九〇〇円

(1) 輸血費用    二万五〇〇〇円

(2) 附添看護費用  二万四九〇〇円

2 逸失利益 八九六万一四五八円

中沢和郎は、死亡当時二二才の独身の男子であり、被告六日町自動車学校に勤務するかたわら、原告らとともにスキー客を対象とする中沢旅館を経営し、かつ、田四反九畝、畑一反五畝の農耕に従業し、年間給与所得三二万五五一〇円、営業所得一五万五〇〇〇円(純利益四六万五〇〇〇円の三分の一)および農業所得八万七八九五円(純利益二六万三六八七円の三分の一)の合計五六万七八九五円の収入を得ていた。しかして、同人の生活費は年間一六万円を超えることがなかった。

そこで、以上の事実に基づいて中沢和郎の死亡による逸失利益を算定すると、次のとおり八九六万一四五三円となる。

(五六万七八九五円-一六万円)×二一・九七〇=八九六万一四五八円

(二一・九七〇は年数四一のいわゆるホフマン係数)

3 慰藉料      四〇〇万円

原告らは中沢和郎の父母であるが、同人が死亡したことによる原告らの精神的苦痛を慰藉すべき額は、各二〇〇万円が相当である。

4 葬儀費用  三七万九〇七〇円

5 損害の填補    六〇〇万円

原告らは、甲、乙両車の強制保険金各三〇〇万円を受領したので、損害額から六〇〇万円を控除する。

6 相続

原告らは、前記のとおり、中沢和郎の父母であり、同人の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続により取得した。

7 弁護士費用     七〇万円

以上により、原告らは各三六九万五二一四円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らがその任意の弁済に応じないので、弁護士たる本件原告ら訴訟代理人にその取立を委任した。その費用のうち各三五万円は本件事故と相当因果関係にある損害である。

(四)  結論

よって、被告ら各自に対し、原告らはそれぞれ四〇四万五二一四円およびこれらに対する中沢和郎が死亡した日の翌日である昭和四四年一月三一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告六日町自動車学校)

(一)は認める。

(二)の1のうち、同被告が甲車を所有していたことは認めるが、後記の理由により、同被告は甲車の運行供用者ではない。

(三)のうち、中沢和郎と原告らとの間の身分関係および損害の填補は認めるが、その余は不知。

(被告高橋建設)

(一)は認める。

(二)の2のうち、同被告が乙車の運行供用者であることは認める。

(三)のうち、中沢和郎と原告らとの間の身分関係および損害の填補は認めるが、その余は不知。

三  抗弁

(被告六日町自動車学校)

(一) 好意同乗等による免責

甲車は専ら教習生送迎のためのスクールバス(三号車)として利用されていたもので、野上延年(被告六日町自動車学校の検定員)はいつも五号車のスクールバスに便乗し、教習生と共に帰宅するのが常であったが、事故当日は五号車に乗り遅れたので、中沢和郎(同被告の整備兼運転員)と共に無断で甲車に乗り込み、野上延年がこれを運転し、中沢和郎が助手席に同乗して、帰宅の途についた。ところが、その途中五号車で帰宅した同被告事務員小幡喜美子を中沢和郎が発見し、「一緒に夕飯を食べよう。」と呼び止めて同乗させ、さらに六日町駅前通り附近で、これも五号車から降りて帰宅中の同被告事務員広田光子を中沢和郎が発見して同乗させ、同人の発案で六日町の上町にある中華食堂「愛食飯店」で夕飯を食べることにした。四名は甲車を付近に駐車させたうえ、右食堂で焼肉、酢豚、サイダーと共にビール三本を注文し、中沢和郎はビール二本を飲んで酔っ払った。さらに四名は午後九時半頃右食堂を出て、六日町の富士見通りにあるバー「サボテン」へ行き、レモンスカッシュなどを飲んだ後、甲車に戻り、野上延年が運転して午後一〇時三〇分頃出発し、塩沢方面に向け時速約五五キロメートルで進行中、本件事故に遭遇したものである。なお右進行中、中沢和郎は助手席で酔っ払って運転席の野上延年らに話かけていた。

以上のように、甲車の運行は、野上延年および中沢和郎が同被告に無断で業務とは関係なく専ら同人らの私的関係に基きなされたものである。かような場合には、被害者たる中沢和郎は自動車運行について運転者たる野上延年と一体となってそれに伴う危険の引受けをしたものと認めるべきである。また、本件は同被告が中沢和郎の同乗について明示的にも黙示的にも承諾を与えていない場合であるから、同被告は自賠法第三条の運行供用者責任を負わない旨が合意されているとみるべきである。

(二) 自賠法三条但書の免責

野上延年は、甲車を運転し、本件事故現場付近の国道一七号線を時速約五五キロメートルで塩沢町方面に向け進行してきたのであるが、本件事故現場付近は進行方向に向って右曲りのゆるいカーブになっているので、カーブの手前で減速した。本件事故現場付近は、右曲りのカーブで、当時有効幅員七・六〇メートルの国道の両側には高さ約一・五〇メートルの雪が壁状になっており、付近には街灯の設備もなく、当時霧が深かったので真暗であった。しかるに、カーブの曲り際の道路左側に乙車が尾灯もつけずに放置されていたため、野上延年は約一〇メートル手前で始めて同車を発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、甲車の左前部を乙車の後部に激突させてしまった。

以上のとおり、乙車は雪の壁のかげにかくれており、当夜は霧が深かったので直前に至らないと発見できない状況にあったのであって、交通が頻繁な国道一七号線上によもや尾灯もつけない違反駐車がなされているとは思いも及ばないことであるから、野上延年には運転上の過失はなく、本件事故はひとえに被告高橋建設の従業員が乙車を違反駐車させた過失によって発生したものである。また、被告六日町自動車学校には運行供用者としての過失はなかったし、甲車には構造上の欠陥も機能の障害もなかったのであるから、同被告は自賠法三条但書により免責される。

(三) 弁済

本件事故による損害賠償として、原告らに対し、被告六日町自動車学校は三一九万二九三七円を、被告高橋建設は三五八万八七一九円を支払った。

(被告高橋建設)

(一) 自賠法三条但書の免責

本件事故現場は六日町方面から湯沢町方面へ至る国道一七号線上である。右道路は歩車道の区別なく、巾員約九・五〇メートルであるが、事故当時除雪作業によって道路両側に巾約一・一〇メートル、高さ約一・五〇メートルの積雪があり、アスファルト路面が出ている巾員は七・六〇ないし七・七〇メートルであった。そして、センターラインにより上下二車線に区分され、衝突地点と反対車線側には被告高橋建設の水銀灯(二〇〇ワット)が、また現場近くの塩沢ドライブインにも街灯があり現場付近は明るかった。ところで、乙車は、車巾一・六九メートルであり、前述の道路巾員からして甲車の進行車線はセンターラインまで二・一〇メートル程の余地があった。故に車巾が一・六九メートルの甲車が乙車のわきを通過するには、十分な道路巾員があり、かつ、前述のような道路の明るさを考慮すると、甲車が乙車への追突を回避することは非常に容易な状況であった。

以上のとおりであって、乙車を駐車させたこと自体過失とはいえず、本件事故はひとえに野上延年の過失によって発生したものである。また、被告高橋建設には運行供用者としての過失はなかったし、乙車には構造上の欠陥も機能の障害もなかったのであるから、同被告は自賠法三条但書により免責される。

(二) 共同運行供用者の抗弁

中沢和郎は単なる同乗者ではなく、甲車の共同運行供用者とみるべきである。すなわち、同人は、被告六日町自動車学校が主張するとおり、野上延年らを誘いあって食堂や喫茶店に行っており、その帰路に本件事故に遭遇したものであるから、同被告および野上延年と共に事故当時甲車の運行を支配していたものと考えられる。しかして、本件事故の発生につき野上延年に過失があったことは、前記のとおりである。

よって、野上延年の過失は、中沢和郎にとって「被害者側の過失」であり、被告高橋建設との関係において、中沢和郎の損害額を算定するにあたっては、野上延年の過失の割合と同率の過失相殺がなされるべきである。

(三) 弁済

本件事故による損害賠償として、原告らに対し、被告高橋建設は三五八万八七一九円を、被告六日町自動車学校は三一九万二九三七円を支払った。

四  抗弁に対する認否

被告ら主張の抗弁のうち、(一)、(二)はいずれも争う。

(三)は認める。ただし、被告六日町自動車学校の弁済金のうち一九万二九三七円、被告高橋建設の弁済金のうち八万八七一九円は、中沢和郎が傷害を受けたことによる損害のうち本訴請求分四万九九〇〇円を除く部分に充当されるべきものである。もっとも、右金員の中に輸血費用一万五〇〇〇円および付添看護費用九五〇〇円を含むことは認める。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  事故の発生

請求原因(一)記載の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

(一)  被告六日町自動車学校

請求原因(二)1記載の事実のうち、被告六日町自動車学校が甲車を所有していたことは原告と同被告との間で争いがなく、≪証拠省略≫によれば、甲車は同被告の教習生を送迎するために使用されていたことが認められる。

しかるに、同被告は、自賠法三条の運行供用者責任を争い、好意同乗等による免責および同条但書の免責を主張するので、これらの点について判断する。

1  好意同乗等による免責について

≪証拠省略≫によれば、甲車は、右のとおり、教習生送迎用のスクールバスであるが、終業後の使用および保管方法については、同被告の従業員である野上延年が運転して塩沢方面の教習生を送り帰した後、自宅に持ち帰って保管し、翌朝再び教習生を学校まで乗せてくることになっており、その間従業員が同車を私用のために使うことは禁じられていたこと、事故当日、同人は、教習生が他のスクールバスに乗って帰ったので、仲のいい同僚中沢和郎一人を乗せて帰宅の途についたが、その途中同人が同じ職場の女子従業員二人を食事に誘い、午後六時頃四人で食堂に入ったこと、そこで夕食をとるとともに、ビール三本を注文し、中沢和郎がうち約二本を飲み、女子従業員二人が約一本を飲んだが、野上延年は飲酒しなかったこと、その食堂を午後九時頃出た時、中沢和郎は多少酔っており、同人の発案でさらにバーに行くことになったが、そこでは、結局誰も飲酒せず、レモンスカッシュを飲んだだけで午後一〇時過ぎ店を出たこと、そして、中沢和郎がすぐ帰宅したいというので、まず同人を自宅に送るべく、甲車の助手席に同人を、後部の座席に女子従業員二人を乗せ、野上延年が運転して前記国道一七号線を進行中、本件事故に遭遇したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

以上の事実によると、野上延年および中沢和郎は、私用のために使うことを禁止されている甲車を同被告に無断で私用に供したことが認められる。しかし、無断私用運転とはいっても、帰宅の途中寄り道をして従業員同志で飲食したという程度のものに過ぎず、同被告としても、従業員に車両の保管を委ねる以上は、当然予想しうべき種類の私用運転であり、当該従業員たる野上延年は全く飲酒しなかったのであるから、同人らが甲車を私用に供したことにより、同被告との関係において甲車の運行支配および利益が同被告から同人らに移行したものと認めることはできない。その他同被告の主張する免責事由はいずれも認められない。

よって、右主張は失当である。

2  自賠法三条の免責について

≪証拠省略≫によれば、事故現場附近の道路状況は、六日町方面から塩沢方面に通ずるアスファルト舗装道路で、歩車道の区別はなく、中央にセンターラインがあって上下二車線に分かれていること、事故当時、道路の両側路肩部分には除雪した雪が高さ約一・五〇メートル積み上げられており、これが道路に平行して壁状になっていたが、路面は乾燥していたこと、有効幅員は約七・七〇メートルであったこと、乙車が駐車していた地点は、六日町方面からみて、道路が右にカーブし始める附近の道路左端部分であり、附近は駐車禁止場所であるのみならず、暗かったため、塩沢方面に向う車両等にとって見とおしが悪かったこと、乙車は尾灯をつけていなかったこと、ところで、野上延年は、甲車を運転し、六日町方面から塩沢方面に向けて時速約五〇キロメートルで進行中、右カーブに差掛ったが、その際、前方に対する注視が十分でなかったためか、それとも、同人が民・刑両事件を通じて一貫して供述しているように、その直前に行き違った対向車の前照灯の光に幻惑され、一時前方の注視が困難な状態になったためかどうかはともかく、進路前方に乙車が駐車しているのをその直前に至るまで発見できず、同車を認めて急ブレーキをかけた時はすでに遅く、自車の左前部を乙車の右後部に激突させたこと、一方、被告高橋建設の従業員である訴外鈴木誠は、事故当日の午後五時頃、修理業者から右道路上で修理済みの乙車の引渡を受け、これを直ぐ近くの同被告事務所に入れるべく運転を開始したが、間もなくガソリンぎれのため動かなくなったので、同車を右地点に駐車させ、かくして、その六時間近く後に事故が発生したこと(≪証拠省略≫によると、同人は、その直後右事務所からガソリンスタンドに電話でガソリンを注文したが、午後七時頃になっても持って来ないので、右事務所にあった他の車で自ら受取りに行き、そこで話し込んでいるうちに急に不安になり、急いで帰ってみると、案の上事故が発生していた、というのである。)、以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

事故発生の状況は以上のとおりであって、これによると、事故発生につき野上延年に過失があったことは明らかである。

よって、右主張は、その余を判断するまでもなく失当である。

(二)  被告高橋建設

請求原因(二)2記載の事実のうち、被告高橋建設が乙車を運行の用に供していたことは原告と同被告との間で争いがない。

同被告は、自賠法三条但書の免責を主張するが、前記認定事実によると、乙車の運転者といえる鈴木誠は、駐車禁止場所というだけでなく、特に危険な場所に、危険防止の措置を何ら講ずることなく、長時間乙車を放置した過失によって本件事故を発生させたものと認められる。

よって、右主張は、その余を判断するまでもなく失当である。

三  損害

(一)  治療関係費等 二九万七一五六円

≪証拠省略≫によれば、原告中沢得一郎は、中沢和郎のために供血してくれた一〇名の人達に対しそれぞれ二五〇〇円の謝礼を支払ったこと、また、同人が受傷後死亡するまでの一〇日間、原告中沢代喜江ら家族の者と交替で看病するとともに、同原告の実家に付添看護を依頼し、これに対し二万四五〇〇円の謝礼を支払ったことが認められる。

以上の諸事情、中沢和郎の傷害の程度等によると、同人は、前記傷害を負ったことにより、右輸血費用二万五〇〇〇円相当の損害および一日一五〇〇円の割合による一〇日間の付添看護費用一万五〇〇〇円相当の損害を受けたものと認められる。

また、弁論の全趣旨によれば、中沢和郎は、傷害による分として、右のほか二五万七一五六円(後記被告らによる弁済金のうち、被告六日町自動車学校の一九万二九三七円および被告高橋建設の八万八七一九円―いずれも傷害関係の強制保険金である―の合計額二八万一六五六円から輸血費用分一万五〇〇〇円および付添看護費用分九五〇〇円を控除した額)の損害を受けたことが認められる。

(二)  逸失利益  七六八万九六四〇円

≪証拠省略≫によれば、中沢和郎は、昭和二一年八月一六日生れの男子で独身であったこと、昭和四一年三月定時制高校を卒業すると同時に被告六日町自動車学校に入社し、年間三二万五五一〇円(昭和四三年度)の給与所得を得ていたこと、そして、勤務のかたわら、父である原告中沢得一郎の経営にかかる季節旅館業(夏休みおよびスキーシーズンに営業、部屋数二一、収容人員約一五〇名)および農業(田四反九畝、畑一反五畝)を手伝い、スキーのコーチ、耕うん機の運転等を分担していたことが認められる。

ところで、勤労者の給与所得が昭和四三年当時にくらべて現在大幅に上昇していることは公知の事実である。そこで、そのことを斟酌して、右認定事実を総合的に判断すると、中沢和郎は、死亡時から四一年間稼働し、年間少なくとも七〇万円の所得を得る能力を有していたものと認めるのが相当である。そして、その間に所得の五〇パーセントに相当する三五万円を生活費として費消するものと考えられる。

そこで、以上の事実に基づき、年別複式ホフマン法によって年五分の割合による中間利息を控除することにして、同人の逸失利益の現価を算定すると、次のとおり七六八万九六四〇円となる。

七〇万円×〇・五×二一・九七〇四=七六八万九六四〇円

よって、これをもって中沢和郎の死亡による逸失利益の損害と認めるのが相当である。

(三)  慰藉料       三〇〇万円

原告らが中沢和郎の父母であることは当事者間に争いがないところ、同人が死亡したことによる原告らの精神的苦痛を慰藉すべき額は、前記二(一)1の事情を除く諸般の事情に鑑み、それぞれ一五〇万円と認めるのが相当である。

(四)  葬儀費用       二〇万円

≪証拠省略≫によれば、原告らは、中沢和郎の葬儀費用として二〇万円を超える支出をしたことが認められるが、このうち二〇万円(原告ら各一〇万円)をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(五)  過失相殺について

被告高橋建設は、野上延年の過失に基づく過失相殺を主張するが、同人と中沢和郎とは、前記二(一)1のとおり、会社帰りに一時の遊興を共にした親しい同僚という間柄に過ぎず、それ以上の関係を認めるに足りる証拠はない。したがって、野上延年の過失をもって「被害者側の過失」と認めることはできない。

よって、右主張は、その余を判断するまでもなく失当である。

(六)  好意同乗等による減額

前記二(一)1の認定事実によると、中沢和郎は、事故当時被告六日町自動車学校の業務を執行していたのではなく、終業後女子従業員を誘って飲食を共にし、深夜同僚の運転する甲車に同乗して自宅まで送ってもらう途中事故に遭遇したものである。のみならず、甲車を私用に供したことについて同被告の従業員として規則に違反する行為があったのであるから、本件事故によって生じた全損害を同被告に負担させることは、信義に反し妥当でないと考えられる。そこで、諸般の事情を考慮して、以上の損害合計額一一一八万六七九六円からその約二〇パーセントに相当する二二〇万円を減額することにする。

ところで、右減額事由は、債権を無償かつ一方的に消滅させるもので、債務免除に類する性質を有する。したがって、民法四三七条の規定の類推適用により、共同不法行為者である被告高橋建設の利益のためにもその効力を生じ、少なくとも、前記野上延年の過失に照し被告六日町自動車学校の負担部分が二二〇万円を超えることが明らかな本件においては、被告高橋建設の債務額もその分だけ減少するものと解するのが相当である。これに相対的効力しか認めないとすると、被告ら間の求償関係において、被告六日町自動車学校が本訴において受けた減額の利益が結局は無に帰することになるが、そのような結論は本件における減額の趣旨に反し合理的ではない。その結果、原告らが不利益を受けることは、前記の事情に照らしやむをえないというほかない(もっとも、右減額は、同被告と中沢和郎との間の内部的な特殊事情によるものであり、第三者たる被告高橋建設が最終的にその利益に与かるべき合理的根拠はないから、これによって同被告の負担部分は影響を受けないものと解するのが相当であろう。これを本件についていえば、同被告は、被告六日町自動車学校との関係においては、本件の全損害額に鈴木誠の過失率――三五パーセント程度か――を乗じて算出した額をもってその負担部分とすべきであろう。)。

(七)  損害の填補 六七八万一六五六円

本件事故による損害賠償として、被告六日町自動車学校が三一九万二九三七円を、被告高橋建設が三五八万八七一九円をそれぞれ原告らに支払ったことは当事者間に争いがない。そこで、右八九八万六七九六円から六七八万一六五六円を控除すると、被告らが賠償すべき額は二二〇万五一四〇円となる(右弁済金のうち六五〇万円を除いた二八万一六五六円は、原告らの主張するとおり、中沢和郎が傷害を受けたことによる損害に対するものであることは、弁論の全趣旨から明らかであるが、前記三(一)で認定したとおり、右八九八万六七九六円は傷害による全損害を含むものであるから、弁済の充当について原告らの右主張を特に考慮すべき理由はない。)。

(八)  相続

原告らが中沢和郎の父母であることは前記のとおりであるから、原告らは同人の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続により取得したものである。よって、被告ら各自に対し原告らが賠償を求めうべき額は、その固有の損害を含めて、それぞれ一一〇万二五七〇円となる。

(九)  弁護士費用      三〇万円

原告らが弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に本訴の提起追行を委任したことは、本件記録により明らかであるところ、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、被告高橋建設の前記弁済金のうち五〇万円は当裁判所の証拠調べ終了後に支払われたものであること、右損害を除く原告らの認容額が右のとおりであることなどの諸事情に鑑み、三〇万円(原告ら各一五万円)と認めるのが相当である。

四  結論

以上の理由により、原告らの本訴請求のうち、自賠法三条により、被告ら各自に対しそれぞれ一二五万二五七〇円およびこれに対する中沢和郎死亡の日の翌日である昭和四四年一月三一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める部分は、正当であるが、その余は失当である。

よって、原告らの本訴請求中右部分を認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。なお、被告高橋建設の仮執行免脱宣言の申立は、相当でないから、これを却下する。

(裁判官 小長光馨一)

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